アプリケーションノート

アプリケーションノート

SONAS-APN-X-0001

RC造集合住宅8棟での地震観測に向けた、無線式振動計による大規模システム構築

地震観測 同期計測 集合住宅 常設設置 建築

既存の建築構造物における複数階での地震観測においては、ケーブルの配線がなく無線で完結するシステムの活用によって、コストを抑えた観測システムの構築が可能となります。本アプリケーションノートでは、Sonas xシリーズを始めとした69台の無線端末を用いて省電力無線ネットワークを構築し、集合住宅における地震振動の多点同期計測を目的としたシステムの設置事例を紹介します。

キーワード
地震観測、大規模集合住宅、加速度センサ、振動計測、無線、構造モニタリング、マンション

構造物と設置の概要

 地震観測を実施している建物は、エキスパンションジョイントを介して連結している3つの建物群からなり、構造的に独立した8つの住棟から構成されている。住棟は、高さの最小が23.68m、最大が57.99 mであり、構造はSRC造2棟とRC造6棟からなる。例として、1つの建物群であるSRC造2棟の大きさの詳細、および端末の設置位置の概要を図1に示す。
 各棟での具体的な設置場所は、集合住宅の廊下部分で金属のメータボックス内(図2,3)が大多数であり、屋上や地下ピットに数台ずつ設置した。
 設置には、4人でおおよそ2日間という短期間での設置を実現した。
図1:建物の詳細と端末設置位置の概要
図2:センサユニット設置の様子
図3:ゲートウェイユニット設置の様子

システム概要

 本システムでは、1つの建物群につき1ネットワークとし、各建物群で1台ずつ合計3台のゲートウェイユニット(親機)と、子機として合計47台のセンサユニット(計測端末)および合計19台のリレーユニット(中継端末)から構成される。建物群ごとの子機の設置台数を表1に示す。
 ゲートウェイユニットは、商用(AC100V)電源駆動であり、LTE通信機能によりクラウドシステムに接続し、現場の無線ネットワークの情報を遠隔から監視できるようクラウドシステムにデータをアップロードする。センサユニットおよびリレーユニットは、設置場所によって内蔵電池のみまたは商用電源で駆動する。
 1つのネットワーク内において、計測端末は高精度に時刻同期した計測を行なうことができる。  
表1:各建物群での子機の設置台数
計測端末台数 中継端末台数
建物群A 17 6
建物群B 16 5
建物群C 14 8

無線ネットワークの様子

 本件の設置現場はRC造またはSRC造の集合住宅であり、ゲートウェイユニットから離れた場所にある子機とは直接通信することができないが、センサユニットおよびリレーユニットが他のユニットのデータを中継して建物全体をネットワーク化する。
 図4に、ネットワークのトポロジ図として、建物群Bの中における無線通信のつながりの様子を示す。2棟の建物はL字状に建設されており、点線でつながっている端末同士で直接の通信が可能である。
図4:1つの建物群における無線ネットワークのつながりの様子

地震波形の観測

 システムの設置後に観測された地震波形のうち、2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の計測データの一部を図5、その拡大図を図6に示す。同一の棟内に設置したセンサユニット4台で記録した3軸の加速度波形のうち、建物の長方向の軸の記録となっている。タイムスタンプの時刻同期がとれているため、類似の位相で、上位階に設置したユニットほど振幅が大きくなる傾向が確認できる。
図5:地震時の加速度波形
図6:地震時の加速度波形(拡大)

まとめ

 Sonas xシリーズを用いて、計測点への配線を必要とせずに、RC造やSRC造の集合住宅の多点振動計測を行なうことができる。
 本設置事例で得られたデータは、建物の応答解析モデルの検討(参考文献[1])に役立てられており、地震時の建物の応急危険度判定システムの普及に貢献することが期待される。

謝辞

 本アプリケーションノートの作成に際してデータの提供を含めてご協力をいただきました、株式会社長谷工コーポレーション技術研究所の扇谷匠己氏、株式会社JSOLの猿渡智治氏に深謝いたします。

参考文献

[1] 扇谷匠己, 猿渡智治:地震観測記録を活用した RC造集合住宅の応答解析モデルの検討, 計算工学講演会論文集 Vol.29, 2024.

製品情報

  • 最新モデル:Sonas x04