アプリケーションノート

アプリケーションノート

SONAS-APN-X-0002

鋼橋のたわみモニタリングを省電力に実現する、 加速度データのトリガ収集システム

同期計測 常設設置 橋梁 土木

 国内の橋梁の多くが一斉に耐用年数を迎えつつある中、橋梁の維持管理において、たわみは重要な指標の一つです。たわみのモニタリングにおいては、桁の複数点での3軸加速度データを中長期に渡って取得することができる省電力なバッテリ駆動のシステムが求められてきました。Sonas xシリーズではこのニーズに応え、実際の道路橋でたわみ値を継続的に取得可能なシステムを構築しました。本アプリケーションノートでは、道路橋でたわみ値の継続的な取得に向け、大型車両が通過したタイミングの加速度データを効率的に収集するシステムの構築事例をご紹介します。

キーワード
橋梁モニタリング、鋼橋、加速度センサ、振動計測、無線、構造モニタリング、たわみ

構造物と設置の概要

 本計測[1]における設置対象の橋梁は3径間からなる全長88mの単純鋼鈑桁橋であり、その1径間(支間長 28.7m)において計測を行なう。
 センサユニット(計測端末)は、支間に均等間隔に5点、橋脚に1点設置し、ゲートウェイユニット(親機)は橋梁の端に設置した。橋梁の概要模式図と、端末の設置位置を図1に示す。桁を計測するセンサユニットは図2のように橋桁裏のフランジに設置した。
 図3に、無線メッシュネットワークのトポロジ図を示す。直接見通しが取れない端末同士を含めて、全ての端末が相互につながるネットワークを形成することができた。これは、桁下に空いている広い空間を、電波が回り込んで通信できた結果であると推察される。

図1:橋梁の概要と端末の設置位置

図2:センサユニットの橋桁への設置
図3:ネットワークトポロジの様子

システム概要

 本システムでは、親機である1台のゲートウェイユニットと、子機である6台のセンサユニットから構成される。
 ゲートウェイユニットは、商用(AC100V)電源駆動であり、LTE通信機能によりクラウドシステムに接続し、計測した加速度データと現場の無線ネットワークの管理情報をクラウドシステムにアップロードする。センサユニットは内蔵電池で駆動し、ネットワーク内において高精度に時刻同期した計測を行なうことができる。センサユニットの計測性能と設定を表1に示す。
表1:計測性能と設定
ノイズレベル 0.2μG/√Hz
計測レンジ ±15G
サンプリング周波数 100Hz

トリガ収集の動作説明

 本計測では、計測データを収集するための無線通信期間を最低限に留めることにより、省電力性を実現している。センサユニット内にはメモリカードが内蔵されており、時刻同期がとれたタイムスタンプとともに計測データを常時記録する。取得が必要なデータは、大型車の通行によって橋桁のたわみが大きくなる期間であるため、計測データの閾値監視によるトリガ検知をイベントとして無線で収集を行った。
 トリガ検知によるデータ収集の流れは以下である。
• 1台のセンサユニットにおいて計測および記録を行なうと同時に、トリガ検知の機能を持たせる。このセンサユニットでは、1秒間ごとの加速度のRMS値を常時監視し、予め設定した閾値を越えた場合(トリガ検知)と、その後閾値を下回った場合(収束検知)に、ゲートウェイユニットに対して通知を行なう。尚、本計測では、監視する対象の軸は鉛直方向のみとした。
• ゲートウェイユニットでは、センサユニットから設定したプレトリガ期間とポストトリガ期間を足し合わせた期間を1つの収集単位とし、全てのセンサユニットに対して収集要求を行なう。
• 全てのセンサユニットは、ゲートウェイユニットから指示された期間のデータを端末内の記憶媒体から読み出して送信する。

計測データの取得結果

 システムを設置して前述のトリガ検知を設定した後、数十秒間分のデータ収集を1回として、1日に数回の収集をほぼ毎日発生し、大型車の通行時の計測データを効率よく収集することができた。図4にクラウドまで収集した支間中央の計測データの例を示す。

図4️:取得した加速度波形(鉛直方向)

たわみの算出

 本システムでは橋桁の支間中央のたわみを主なモニタリング主体としており、支間中央の鉛直加速度と同一支間上の5箇所における傾斜角(図5)から、カルマンフィルタを利用してたわみ量を推定(図6)する方法[2]であった。これは、加速度の二階積分から求める場合に補正が必要な積分誤差を考慮せずにたわみを求めることが可能である。
 図7に、取得した加速度から算出したたわみ波形を示す。

図7:加速度から算出したたわみの波形

図5:加速度からの傾斜角算出
図6:たわみ算出の模式図

まとめ

 Sonas xシリーズを用いて、たわみ算出に必要な複数点の加速度データを、省電力なシステムから取得することができる。
 本システムは、小規模橋梁の健全性推定において求められる、コストを抑えたモニタリング手法の一つとして有用性が期待されている。

今後の展望

 本事例の時点ではゲートウェイユニットにAC100V電源が必要であった。当社では、電池駆動型のゲートウェイユニットを開発中で、これにより全ての端末を電池駆動にした上で、クラウドに計測データをアップロード可能な仕組みを提供する予定である。

謝辞

 本アプリケーションノートの作成に際してデータの提供を含めてご協力をいただきました、NiX JAPAN株式会社の井上氏に深謝いたします。

参考文献

[1] 古野昌吾, 井上雅夫, 阿曽克司, 石田陽平, 戸田一夫:鋼橋のIoTデバイスを活用した健全性モニタリング手法の開発, 令和4年度建設コンサルタント業務研究発表会
[2] 加藤宗, 長山智則, 王浩祺, 蘇迪, 西尾真由子:一般道の連続鋼箱桁橋における無線加速度計を利用した簡易BWIM, 土木学会論文集A1(構造・地震工学), 2020, 76 巻, 2 号, p. 356-375.

製品情報

多点同期型振動計
最新モデル:Sonas x04常設シリーズ