技術情報
無線による構造物モニタリングへの挑戦
構造物モニタリングでは、計測した振動データは構造物の健全性を推定する解析に使用されます。このため、計測システムに対して以下のような要求があります。
・センサ端末同士で高精度に時刻同期された計測
構造物全体での動きを捉えるために、複数箇所につけたセンサ端末が持つ時計を合わせた上で、1点1点の振動データを同じタイミングで計測すること
・大規模で複雑な設置現場における高信頼なデータ回収
広範囲で入り組んだ建物や構造物などの中に多数設置されたセンサ端末から、振動データを漏れなく回収すること
・振動データを波形ごと収集できる通信速度
各センサ端末で1秒間に数百個以上作られる数十分間分の計測データを収集可能な無線の通信速度がでること
これらの要求は、従来のIoT向けの無線(省電力動作で広範囲の通信を行なうLPWA)を用いたシステムでは実現することが困難であったため、無線は使わず有線のシステムとして、ケーブルで全端末を配線する必要がありました。ソナスでは、独自開発の無線規格であるUNISONet(ユニゾネット)を基礎とした無線式振動計測システムを会社の創業当時から手掛け、こうした技術課題を解決してきました。
センサ端末同士で高精度に時刻同期された計測
ネットワークの子機となるセンサ端末(センサユニット)の各々で保持する時刻を、親機であるゲートウェイユニットの時刻と合わせ込む仕組みを紹介します。
ゲートウェイユニットからは、時刻同期パケット※1 が定期的に送信されます。このパケットには送信時の時刻が含まれています。センサユニットでは、このパケットが送信されてから受信するまでにかかった時間をパケット内の時刻に足し合わせると、パケットを受信した時刻を推定することができます。
一般的なメッシュネットワーク※2 では、複数回中継された時刻同期パケットを受信すると、中継のたびに不確定な遅延が発生するため、時刻の推定が困難でした。一方、UNISONetでは中継の際に「受信したパケットを即座に転送する」というメッシュネットワークの中では特徴的な方式を使用しています。そのため、パケットの到達遅延時間を「固定の時間x中継回数」として捉えることができ、複数回中継されたパケットからでも正確に受信時の時刻を推定することが可能となります。
こうして当システムでは、大規模なネットワークを構築しても時刻同期誤差80μ秒以内というLPWAでは類まれなる時刻同期精度を実現します。
- ※1 パケット:通信において扱う1まとまりのデータのこと。
- ※2 メッシュネットワーク:ネットワーク上の端末が網目状に相互に接続する型のこと。別の型として、1個の親機が複数個の子機と1対1でつながるスター型などがある。
大規模で複雑な設置現場における高信頼なデータ回収
設置現場でデータを漏れなく収集するポイントは2点です。
1点目は伝達経路の超多重化です。一般的なメッシュネットワークでは、予め定めた伝達経路でパケットを送受信します。UNISONetでは、パケット送信の際に経路や宛先を考慮しないブロードキャスト方式を取っています。これにより各端末を設置した結果生まれる全ての経路を使用することが可能となり、高信頼にデータを収集することにつながります。これは、ユーザーが直感的に無線ネットワークを構築できることにも繋がります。例えば、設置現場において通信範囲外の場所に新たにセンサユニットを設置したい場合、電波が届いている最寄りの端末との間に中継端末を置くことのみで、通信エリアを拡張することができます。
2点目は再送制御です。構造物モニタリングの設置現場では、無線通信の妨げとなる壁や扉などの障害物が多数あり、センサユニットからの1回のパケット送信で確実にデータを収集することは困難です。そこで、ゲートウェイユニットからセンサユニットに対してきめ細やかな再送制御を行なうことで、最終的なデータロスを防止します。
振動データを波形ごと収集できる通信速度
無線通信においては、通信距離と通信速度の間にはトレードオフが存在します。
これに対しメッシュネットワークでは、端末間の通信距離を短くし通信速度を保った上で、中継によりネットワーク全体での距離を稼ぐことが理論的には可能です。しかしながら広範囲でありながら通信環境が刻一刻と変化する実際の設置現場において、安定した通信速度を保つことは容易ではありませんでした。
当システムでは、前述の「高精度時刻同期」と「高信頼性」を活用することで、各センサユニットからの大容量データ収集の仕組みを無線通信プロトコルとして構築しています。これにより広範囲な設置現場での高速通信を実現しました。
こうして、振動データのように比較的容量が大きいデータの場合にも、各センサ端末内で常時記録を行い必要な分だけ切り出して収集する仕組みと合わせて、アプリケーションで満足できるデータ収集機能を実現しています。
振動加速度の計測性能
サーボ型加速度計と性能の比較をしております。
・加振条件:掃引正弦波 (1~60Hz、0.15G)
ch#01:他社サーボ型加速度計(サンプリング周波数100Hz、カットオフ周波数41.3Hz)
ch#02:Sonas x04(サンプリング周波数100Hz、カットオフ周波数31.25Hz)
Sonas x04 QCタイプ(超高精度・低ノイズ計測版)は別仕様となります。
より詳細が記載してあるデータシートの入手は、お問い合わせよりお申し込みください。