2020.06.26
IoT解説
ソナスの滝澤です。
前回のIoTの解説記事では、「IoT:Internet of Things(モノのインターネット)」という言葉の大まかな意味と最初にIoTという概念を提唱したKevin Ashtonの考えていたことをご紹介しました。
よくある「IoTとは」と、提唱者の考えたIoT
今回は「IoT:Internet of Things(モノのインターネット)」について解説します。 調べてみると提唱者のKevin AshtonのIoTについて.....
この記事の中でIoTの具体的な定義が各所でバラバラであると述べましたが、十人十色というほどそれぞれが好き勝手に定義をしている、というわけではありません。ただ幾つかの細かい点での相違によってAが説明するIoTの定義に従うとBが言うIoTには当てはまらないということがあり、大きく三つのグループに分かれているのではないかと考えています。
今回の記事では、その三つのグループに「ユビキタス系譜のIoT」「ビッグデータ系譜のIoT」「スマートデバイス系譜のIoT」と、どの技術からの流れでIoTを語るかという観点でラベルを付けて、IoTの定義に生じる差異を紐解いてみたいと思います。
これら三つの分類はそれぞれ相反しているわけではなく、その立場からの「IoT」という言葉の指し示す範囲が微妙に異なるというだけです。DXの解説と同様、IoTという言葉を用いた人が「何をもってIoTと呼んでいるのか」を理解する一助としていただければと思います。
最初に、それぞれのIoTの分類をまとめたものを載せておきます。
ユビキタス系譜のIoT
あらゆるモノにコンピュータが組み込まれてネットワークに繋がり、ユーザーがその情報処理能力の恩恵を受ける「ユビキタスコンピューティング/ネットワーク」の流れで定義されるIoTです。
モノが通信機能を持ってデータを集めたりモノの制御ができることを重視していて、モノから集めたデータによって自律的または人が遠隔でモノを制御するような仕組みが目指すシステムになります。
具体的な例としては温度・湿度・照明・水位などの環境情報をモニタリングして、その条件に応じて空調などの設備を自動調整する、といったシステムが典型になります。
今回の分類の中では最も定義が広く、複数のモノ同士が何らかのネットワークで繋がればその形態はあまり問いません。
「ネットワーク経由でモノを制御できる」という点を重視する向きもありますが、データ収集できるというのはその一部分や途中段階と考えられるので、「制御できなければIoTではない」ということにはなりません。
そのため、次に述べる離れたサーバにデータを集める「ビッグデータ系譜のIoT」も、モノ同士が完結して自律的に制御するM2Mも、IoTに含まれるという立場になります。
私を含め、元々「ユビキタス」という言葉が表していた領域に触れていた人が、「IoT」をその後継として理解している場合に、この立場をとることが多いと思われます。
ビッグデータ系譜のIoT
様々なデータを蓄積して高度に分析したり、収集したデータからAI・機械学習によって何らかの判断を行ったりする「ビッグデータ」の流れで定義されるIoTです。
センサが組み込まれたモノからデータを一か所に集積しそのデータを活用することを重視していて、集めたデータを複合的に解析し人間の判断に役立てたり、AI・機械学習で自動的に判断して何らかのアクションを起こせるような仕組みが目指すシステムになります。
具体例としては電力会社のサービスで家庭の電気メーターから得られる電力消費データを収集し、それを元に省エネ診断をしたりその過程に適したプランを提案するようなサービスが挙げられます。
最近ニュースに出た沖電気の密漁検知システムがまさにこの形で、水中の音響センサからの情報をクラウドに集めて分析し異常と判断されたら関係者に通知する、というものになっています。
こちらはネットワーク形態がある程度限定されており、モノの通信先は離れた場所(インターネット上のクラウド環境や閉域網の先のデータセンター)にあるサーバという形になります。
モノにSIMカードを指して直接インターネットに繋ぐか、ローカルな無線ネットワークからゲートウェイが中継するか、など細かい部分ではバリエーションはありますが、「IoT:Internet of Things(モノのインターネット)」の名の通りインターネットに繋がって高度なサービスが生まれてこそのIoTであり、機械間で通信が完結するM2Mやローカルに閉じた単用途のセンサネットワークなどはIoTとは別物である、と説明されます。
書籍やネット上の解説記事ではこの立場が多く見られ、「これまでのユビキタスやM2Mと何が違うのか」という観点からIoTを差別化する要素として「インターネット経由でクラウドにデータを蓄積しビッグデータとして活用すること」を据えている、と見ることもできるかもしれません。
スマートデバイス系譜のIoT
情報処理能力とユーザーインターフェース(UI)を持ったデバイスが新たな体験や価値を提供する「スマートデバイス」からの流れで定義されるIoTです。
単純な機能しかなかったモノに情報処理能力とUIを与えて高度化することを重視し、さらなる利便性や新しい付加価値を生み出せる仕組みが目指すシステムになります。
具体例はスマートウォッチ・スマートスピーカー・スマート家電など、名前の通り特定のモノの名前に「スマート」という言葉の付いたものが挙げられます。ただし前回記事で挙げた「スマートホーム」「スマートグリッド」「スマートシティ」のように、特定のモノではなく領域を指すような場合は他のIoTの定義に近いイメージになります。
他二つのIoTの定義は複数のモノがネットワークに繋がることで得られる付加価値に焦点を当てているのに対し、こちらはモノ単体の付加価値向上が焦点になるためか、ネットワークの形態はあまり意識されないように思います。
特に、Bluetoothでスマホと1対1通信するだけという場合でもIoTと呼ばれることがあります。それ以外ではIPデバイスとしてWifiで家庭のLANに接続したりSIMカードを挿してインターネットと直接通信したりすることが多く、スマホやタブレットのような情報端末とほとんど変わらないことからネットワーク形態が議論に上らないのかもしれません。
また、ネットワークに繋がるモノ(=スマートデバイス)そのものを人が使うという前提が他と異なり、特にM2Mとはこの点において別物になります。
この定義は「IoTとは」の解説として見かけることはあまりありませんが、IoTを謳った製品(サービスではなく実体のあるプロダクト)の紹介でこの意味で使われるのをよく見かけます。特に「IoTプロダクト」という言葉で言及される際はこの立場であることが多いです。
三つの流派の関係性
冒頭に述べたように、これらのIoTの三つの定義はそれぞれが相反しているわけではなく、IoTという言葉が使う人によってその指す範囲が微妙に異なっている点を中心に整理したものです。どれが正しい定義なのかという議論はあまり意味がなく、現在においては「どれもIoT」です。
そして、これら「ユビキタス」「ビッグデータ」「スマートデバイス」はそれぞれ現在のIoTに密接に関係しています。
何度か紹介している通り、IoTの前はユビキタスと呼ばれていました。逆に言えば、ユビキタスは普及に至らなかったということです。
まず当時はそこまで小型・安価・高性能・省電力なプロセッサがありませんでした。また同時に、ユビキタスでビジネス的に成功するアプリケーションが生まれませんでした。技術とビジネスの両面で課題があったと言えます。
そこから、スマートフォンを嚆矢とするスマートデバイスの普及により、小型・高性能・省電力なプロセッサの技術が発展しました。そしてそのおかげで、センサやマイコンといったユビキタスに求められていた要素も急速に進化しました。
また一方でAI・機械学習技術の発達とビッグデータという概念の普及によって、集めたデータを活かしてビジネスが成り立つようになりました。
Google Trendsで「IoT」「ユビキタス」「ビッグデータ」「スマートデバイス」の検索量の推移を比較してみると、00年代にユビキタスが次第に退潮していった後、2011年頃からビッグデータが隆盛します。スマートデバイスは母数の規模の差で分かりにくいですが、2011年頃から一段階検索量が増加しています(ちなみに検索語「スマートフォン」でみると2010年から爆発的に増え2011年にピークとなっています)。
そして、それらに遅れて2015年頃から「IoT」の検索量が増えていったことが分かります。
「ユビキタス」を源流に「ビッグデータ」と「スマートデバイス」の流れが合流したからこそ、現在の「IoT」があると言えるのではないでしょうか。
まとめ
今回はIoTの定義に「ユビキタス系譜のIoT」「ビッグデータ系譜のIoT」「スマートデバイス系譜のIoT」の三つの流派がある、という整理をさせていただきました。
私自身は元々「ユビキタス系譜のIoT」の広めの定義でIoTを捉えていたのですが、多くの解説で「IoTはインターネット経由でクラウドにデータを送信するもの」「機械同士の通信で完結するM2Mとは異なる」などと書かれていたり、「IoT○○」と紹介されたプロダクトがスマホアプリからBluetoothで設定を行う程度の通信機能しかなかったりしたのを見て混乱したのが今回の整理のきっかけです。
私個人ではなくソナスという会社観点でみると、UNISONetという独自の無線通信技術をコアとするソナスは「ユビキタス系譜のIoT」が最も近いかと思っていたのですが、社内で「どれに考え方が近いですか」とアンケートしたところ、コメントとして「ビジネスとして成り立たせるにはビッグデータが重要」という意見も多く出ました。
今回の分類だと「ビッグデータ系譜のIoT」はM2Mなど他の形態を含めない狭い定義になってしまうので、ソナスは「ビッグデータ活用も重視するユビキタス系譜のIoT」といったところでしょうか。
今回の記事で取り上げた分類は当初の私の定義から、先述の社内アンケートなどでフィードバックを貰ってブラッシュアップされていきました。特に三つの流派の関係性の考察はCTO鈴木のコメントが元になっています。
折角なので読んでいただいた皆様にもどのIoTに考えが近いかを訊いてみたいと思い、簡単なアンケートを設置しておきます。よろしければお気軽にご回答くださいませ。