2020.06.03
DX解説
ソナスの滝澤です。
今回は前回記事「DXとは結局どういう意味なのか」に続いて、DX:デジタルトランスフォーメーションをその言葉の使われる文脈から理解してみたいと思います。
DXとは結局どういう意味なのか
今回のテーマは、本サイトの名前にもある「DX」です。IT関係のニュースで、あるいは仕事上の日常会話で、至る所で見かけるこの「DX」という言葉。もはやITのバズワ.....
前回記事の終わりに書いた通り、これまでDXという言葉の含まれるニュースを継続的に追いかけていて、最近ではその文脈は大まかに4つに分類できるのではないかと考えるようになりました。
具体的には、「技術活用としてのDX」「ビジネス変革としてのDX」「組織論としてのDX」「情報インフラ変革としてのDX」の4分類です。本記事ではこれらについて、例とともに紹介したいと思います。
なおこれらはDXそのものの意味というよりも、あくまでDXという言葉が使われる文脈の分類になります。DXという言葉が含まれる記事を読む際に「これはどういう性質の記事なのか」をざっと整理するものとして考えていただければと思います。
技術活用としてのDX
新しいデジタル技術を取り入れる部分に焦点を当てた文脈でDXという言葉が使われるパターンで、前回記事で紹介した野村総合研究所(NRI)の定義の「DX1.0 プロセス変革(デジタルフロント/デジタルバック)」に相当します。
「○○社のDXの取り組み」という見出しに対して、「検査にAIによる画像診断を導入」「RPAで事務処理を効率化」といった具合ですね。
弊社ソナスも無線技術「UNISONet」をコアにIoTを提供しお客様のDXを実現するという立場ですので、弊社から語るDXも自然とこの文脈が多くなります。
最もスタンダードなDXという言葉の使われ方である一方で、DXという言葉に含まれる「事業(ビジネス)を変革する」というニュアンスを重視して「単に特定の業務に新技術を導入するだけではDXとは言えない」という批判をされることもあります。
ビジネス変革としてのDX
デジタル技術によって従来の事業モデルを転換したり、全く新しいビジネスモデルが生み出されるという部分に焦点を当てたパターンです。NRIの定義では文字通り「DX2.0 ビジネス変革」に対応しています。
前回記事でご紹介した「最新のITを活用して、デジタル社会の変化に対応できるよう事業を変革する」というDXの最大公約数的意味に対して最も忠実な文脈であると言えます。
この文脈で「○○社のDX」と語られる場合が最も華々しいDXの成功事例となりますが、一方で「この技術を導入してこのようにビジネスモデルを変えた」という情報に対して「どうして我が社は同じことが出来ないのか」と考える人が多いのか、「いかにビジネス変革をもたらす組織を作り上げるか」という話が出てきます。これが次の「組織論としてのDX」です。
組織論としてのDX
前述の通り、ビジネス変革を起こすために、また今後も起こり続けるデジタル社会の変化に対応し続けるために、いかに会社組織を変革するかという文脈です。「DXのための組織変革」というのが正確かと思いますが、この組織変革自体もDX論の一部として扱われることもあります。
DXに関する組織論として語られる内容としては以下のようなものかと思います。
- DX推進のための組織づくり
情報部門と事業部門の横断組織、経営からのコミットメント、等 - 新しい技術を積極的に取り入れて新規事業を起こすための取り組み
オープン<イノベーション組織、協創プラットフォーム、等 - イノベーションを生むための企業風土改革
働き方改革(テレワークやツール活用)、オフィスのオープンスペース化、等 - IT部門の改革
守りのIT(業務効率化)から攻めのIT(価値の創出)へ、等
最後に挙げたIT部門の改革に関連して、日本企業のIT部門には組織論としての課題以外に基幹システムのレガシー化が大きな課題となっています。このレガシー化したシステムを変えるという文脈のDX論が最後の「情報インフラ変革としてのDX」です。
情報インフラ変革としてのDX
「情報インフラ変革としてのDX」という文脈で最もメジャーなのが、2018年に「2025年の崖」問題を提起した経済産業省の「DXレポート」です。このレポートでは日本の企業のDXを実現するためにはシステムのレガシー化が足枷になっているとして、紙面の大半がレガシーシステムの課題についての記述に割かれています。
なおこのレポート自体は「DX実現のために、レガシーを脱却する」という建付けで、レガシーシステムの脱却とDXはきちんと分けて論じられています。しかし、その主題がレガシーシステムに偏っており「2025年の崖」というセンセーショナルなキーワードで有名になったことで、「DX=レガシーシステム脱却」として扱われることもあります。
また、レガシーシステムからの脱却に限らずビッグデータ活用のために企業全体としてのデータ基盤を整備する、といった話もこの「情報インフラ変革としてのDX」の文脈と言えるかと思います。
実際のニュースを分類してみる
ITmediaの「デジタルトランスフォーメーション」キーワードの記事一覧に2020/6/1現在で表示される記事から、タイトルに「DX」の含まれる記事を幾つかピックアップして分類してみたいと思います。
「技術活用としてのDX」のニュース
ビジネスと気象の相関分析でDXを支援――ウェザーニューズ、気象データ提供サービス「WxTech」を開始 – ITmedia エンタープライズ
気象データAPIサービス提供開始のニュース。新しい付加価値が生み出されることが意識されたサービスですが、この記事自体は気象データAPIという技術が利用可能になったという内容のため「技術活用としてのDX」という文脈で私は捉えました。このAPIを活用した新しいビジネスという話になれば「ビジネス変革としてのDX」になります。
「三井のオフィス」に5G環境構築 三井不動産とKDDIがDXへの取り組みで基本合意 – ITmedia エンタープライズ
5Gを活用したオフィスソリューションの実証実験のニュース。こちらも5Gをオフィスに取り入れるという話ですので技術活用の段階と考えます。
「ビジネス変革としてのDX」のニュース
AIがデジタルトランスフォーメーションの起爆剤に? “ミニDX”から始める企業変革 (1/4) – ITmedia NEWS
タイトルからはAIがテーマの「技術活用としてのDX」かなと思いましたが、内容はきちんとDXの定義から紐解いてビジネス面からのAI活用を論じる内容になっています。
「組織論としてのDX」のニュース
コーポレート本社の存在意義を再考する〜投資家視点でDXとイノベーションを先導せよ〜 (1/2) – ITmedia エグゼクティブ
コーポレート本社(CHQ)に影響を与える最大のメガトレンドは「DX」と「イノベーション」であるという、まさに組織論の記事です。
「情報インフラ変革としてのDX」のニュース
日本IBM、2020年7月に新会社「日本アイ・ビー・エム デジタルサービス」発足 DX支援強化で – ITmedia エンタープライズ
日本IBMのグループ子会社のSIer企業3社が合併するというニュース。大手SIerの謳うDXにはこれまでのレガシーシステムからの転換という面も大きいと考えられます。
まとめ
DXという言葉が使われる文脈として、「技術活用としてのDX」「ビジネス変革としてのDX」「組織論としてのDX」「情報インフラ変革としてのDX」の4分類を紹介させていただきました。
冒頭にも述べた通り、これらはDXという言葉の意味そのものの分類ではないという点にはご注意ください。実際に取り上げたニュース記事を見ていただくと分かりますが、特に「組織論としてのDX」「情報インフラ変革としてのDX」の文脈でもDXという言葉自体は「ビジネス変革としてのDX」と同じ意味で使われているということも多いです。
これらの文脈の分類は下図のような関係で、最後には「ビジネス変革としてのDX」に行きつく、という共通認識が見て取れます。
そしてこの文脈の関係はそのまま、DXを実現するための順序であるとも考えられます。
情報インフラと組織を整備して、新しい技術を活用できるようにする。そこからさらに新しい技術を活用してビジネスに新たな付加価値を生み出せる組織に変革できれば、DXが実現される。
もちろん全ての企業のDXがこれらの要素全てを含む訳ではないですが、世間がDXについて思い描いているストーリーの全体像が、このDXに関する文脈で捉えた関係性から見えてくるのではないでしょうか。