2020.08.17
IoT技術解説
セルラー系LPWA
ソナスの滝澤です。
これまでの記事で、LPWA全般のあらましと、通信速度などの指標の留意点を解説しました。今回から、いよいよLPWAの各規格の概略を解説していきたいと思います。
IoTの通信技術、LPWAとは
今回は弊社のコアであるIoT(Internet of Things)の通信技術を解説したいと思います。
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今回はこれまでのDX解説をベースに、タクシー配車アプリ「JapanTaxi」の事例を紐解いてみたいと思います。
初回はセルラー系(ライセンスバンド)LPWAの3つの規格、LTE-M、NB-IoT、LTE Cat.1です。
LTEという同じ技術をベースにしているLPWA規格が3種類も存在している、というところから既に混乱してきそうですが、逆に同じ技術をベースにしているためその違いと使い分けは分かりやすい、とも言えます。
本記事では、これらの規格の違いの大元はどこかというところから、それぞれの特徴を紹介したいと思います。
LTEの「カテゴリー」
LTEをはじめとするモバイル通信の規格は、各国・各地域の標準化団体によって共同で設立された3GPP(Third Generation Partnership Project)というプロジェクトによって仕様が策定されています。
策定された仕様はリリースというものにまとめられ、リリース番号が振られます。例えば国内で今年からサービスが始まった5Gの高速大容量通信はリリース15で、今後リリース16とリリース17で超低遅延・多数同時接続といったフルスペックの5G規格が定まる見込みです。
リリースの中にはUE(User Equipment)カテゴリーという分類があり、一つのUEカテゴリーが実際の一つの通信規格という扱いになります。
今回紹介するLTE-M、NB-IoT、LTE Cat.1は全てこのUEカテゴリーに対応します。Cat.1は分かりやすく、カテゴリー1ですね。LTE-MはCat.M1、NB-IoTはCat.NB1というカテゴリーです。
時系列で見ると、LTE Cat.1が最初にLTEを標準化したリリース8で策定されました。その後、リリース12でM2M通信を想定したCat.0という規格が生まれ、その発展形としてリリース13でCat.M1が策定されました。Cat.NB1もCat.M1と同じリリース13で、LoRaやSigfoxに対抗するローエンドの規格として策定されています。
セルラー系LPWAの違いの根源「リソースブロック」
無線通信規格において、通信速度を決める主要な要素の一つに周波数帯域幅があります。周波数帯域幅というのは電波信号に使う周波数の範囲の幅のことで、例えば1920MHzから1940MHzの範囲の周波数を利用する場合は帯域幅は20MHzとなります。一般に周波数帯域幅が広ければ時間当たりに送れるデータ量が多い、すなわち通信速度が速いということになります。
LTEでは5MHz・10MHz・15MHz・20MHzといった帯域幅を使用しますが、OFDMA(直行周波数分割多元接続)という技術によりその帯域幅を180kHzごとに細かく分割して複数の信号を並列に通信できるような仕組みになっています。
この細かく分割された周波数帯域(正確には時間軸も通信スロット単位で分割したもの)をリソースブロックと呼び、スマートフォンなどのモバイル通信に利用される通常のLTEではこのリソースブロックを全て使って柔軟に割り当てるこで多数の端末が同時かつ高速に通信することが可能です。
セルラー系LPWAは通常のLTEの仕組みにIoT用途向けに基地局からの待ち受け受信間隔を大幅に伸ばしてスリープ時間を伸ばすなどの改良を加えているほか、使用するリソースブロックの数を制限することで省電力を実現しています。
このリソースブロックをどれだけ使用するか、という部分がLTE-M、NB-IoT、LTE Cat.1という三つの規格の根本的な違いになります。そして、リソースブロック数の違いによって通信速度と省電力性が決まってきます。
各規格のリソースブロック数と性能は以下のようになります。
- NB-IoTはリソースブロックを1個分しか使用せず、最も低速な代わりに最も省電力
- LTE Cat.1は携帯電話向けLTEと同様の全てのリソースブロックを使用し、最も高速で消費電力も大きい
- LTE-Mはリソースブロックを6個分利用し、消費電力と速度はNB-IoTとLTE-Mの中間の性能
各規格の概要
それでは、各規格の概要をそれぞれ見ていきましょう。
なお、今回記載している通信速度は全て、前回記事でいう「変調方式を考慮した通信速度」に相当します。
LTE-M
LTE-Mという呼称は通信キャリアがサービス名として使用しているもので、規格としての正式名称はLTE Cat.M1、そのほか3GPPによるカテゴリーの通称としてeMTC(enhanced Machine Type Communication)というのがあります。Machine Type Communicationという通り、機械同士(M2M)の通信を想定した規格です。
前述の通りリソースブロック6個分の1.08MHzの周波数帯域幅を使用し、通信速度は300kbps~1Mbpsで3つの規格の真ん中に位置する性能を持っています。
IoT向けに通常のLTEよりスペックを大幅に落としていますが、移動しながらの通信中に別の基地局にシームレスに切り替わるハンドオーバーや、自回線経由でファームウェアをアップデートするFOTA(Firmware Over The Air)といったLTEが持つ機能を利用することが可能です。
NB-IoT
正式な規格名はLTE Cat.NB1で、NB-IoTという呼称は3GPPのカテゴリーの通称かつ通信キャリアのサービス名称になります。NBはNarrow Bandの略で、リソースブロック1個分の180kHzしか周波数帯域幅を利用しないことからきています。
帯域幅が狭いため通信速度は上りが62kbps・下りが1台当たり26kbpsしかなく、FOTAはできません。IoT向けとして省電力・低コスト化のためにかなり割り切った仕様となっており、ハンドオーバーの機能もありません。多くのLPWAと同様の、固定設置したセンサノードから数分に1回といった低頻度でデータを送信するようなユースケースに向いています。
他の2つの規格にない大きな特徴として、本来であれば使用できないガードバンド(使用帯域以外に影響を与えないために、使用帯域の両端に設ける通信を行わない周波数帯域)を使用することができ、他のLTE規格と競合せずに通信することができます。
LTE Cat.1
Cat.1はカテゴリーの説明で述べたように他2つの規格より古い規格で、LTEの標準化当初に策定されたCat.1~Cat.5の5つのUEカテゴリーの中の一つです。他のカテゴリーがMIMO(複数アンテナを同時利用する技術)を採り入れて高速データ通信を可能にしているのに対し、Cat.1はM2Mの低速通信向けに1つのアンテナしか使わず装置コストを安くすることを想定しています。
通信速度は上り5Mbps・下り10Mbpsで、リソースブロックを全て使う分LTE-M・NB-IoTよりも早く、MIMOを使用しないためCat.2以降より遅い、といった位置付けです。機能としては通常のLTEとほぼ同じなためハンドオーバーやFOTAも可能です。「ハイエンドなLPWA」と言われることがありますが、実態としては「ローエンドのLTE」の方が近いかもしれません。いずれにせよ、LTEとLPWAの境界に位置する規格と言えます。
最も古い規格だからといって当初から利用されていたかというと実はそうでもなく、登場当時は通信高速化の志向が強くあまり顧みられることはありませんでした。近年になってIoTの浸透が進みLPWAが普及したことで、「他のLPWAより多少省電力性は悪くて良いのでもっと高速な通信がしたい」というニーズが顕在化し再評価された、という経緯になっています。
主要通信キャリアの動向
これらのセルラー系LPWAですが、各社のIoT向けサービスのページを見るとキャリアによって主力とする規格が異なっています。
NTTドコモはLTE-MとCat.1の2つをIoT用サービスの品目として並列に扱っています。以前はNB-IoTもラインナップされていたのですが、2020年3月をもって提供終了となりました。
KDDIはLTE-Mを国内で最初にサービス提供を始めたということで前面に押し出しています。通信プランに規格名の記載が見つからないのですが、提供モジュールなどを見るとCat.1に対応しています。
ソフトバンクもNB-IoTのサービス提供を国内で最初に初めており、ドコモがNB-IoTを提供終了した今は唯一ということでNB-IoTを押し出しています。その他プレスリリースなどを見るとCat.M1とCat.1も提供はしているようです。
セルラー系LPWAの今後
今回紹介している規格はCat.1は3GPPのリリース8で2008年、LTE-M(Cat.M1)とNB-IoT(Cat.NB1)はリリース13で2016年に登場した規格です。
その後も3GPPでは、Cat.M1を発展させたCat.M2(feMTC:further eMTC)と、Cat.NB1を発展させたCat.NB2(eNB-IoT:enhanced NB-IoT)を仕様策定していますが、これらは実際に商用サービスとして使われるまでには至っていません。通常のモバイル通信は携帯電話からスマートフォンへの移行とも重なり高速化・大容量化の方向に常に進化が求められてきましたが、敢えて速度を切り捨てるIoT向けではユーザー側にあまり進化のモチベーションがないのかもしれません。
しかし、今後はモバイル通信のインフラが4Gから5Gに変わっていきます。5Gは4G(LTE)の技術を引き継いでおり同じ設備で4Gと5Gを混在させることが可能なためすぐに現在のセルラー系LPWA規格が利用不可能になることは考えにくいですが、次のリリース16でLTE-MとNB-IoTの5G対応版の標準化が進められており、今後はそちらの規格に移行していくのではないかと思われます。
まとめ
現在使われているセルラー系LPWAの3つの規格、LTE-M、NB-IoT、LTE Cat1を紹介しました。まとめると以下のようになります。
3つの規格の大きな違いは使用するリソースブロックの数=周波数帯域幅で、それによって通信速度と省電力性に違いが生じています。逆に言えば、これらの3つの規格については用途に求められる通信速度と省電力性から適したものを選択すれば良い、と言えるかと思います。
非セルラー系のLPWAとの比較としては、アンライセンスバンドを使用したLPWAでは通信速度1kbps未満の規格も多くあるのに対し、セルラー系LPWAは最も通信速度の遅いNB-IoTでも数十kbpsと比較的高速な部類に入ります。1回線あたり月額でおよそ百円~数百円のコストがかかるので、想定用途に対して要求される通信速度とコスト感のバランスが取れるかがポイントになってくるでしょう。
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